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社長インタビュー

酒類流通の未来を探る:カクヤスグループ・佐藤順一社長 「まさにペットフード」

2021/09/02

カクヤスグループ代表取締役社長・佐藤順一
カクヤスグループ代表取締役社長・佐藤順一

「なぜペットフード?」ではなく「まさにペットフード」 新たな宅配ビジネスモデル構築へ

 創業100周年を迎えたカクヤスは、戦略の軸をBtoBからBtoCへと大きくかじを切った。東京都内中心に半径1.2km圏内に毛細血管のように張り巡らされた「なんでも酒やカクヤス」などの約170拠点が持つ個人飲食店向けの配送を業務用センター、サテライトに集約し、その能力をすべて宅配に振り分ける。コロナ禍による飲食店の時短営業、またはアルコール提供禁止などの規制により業務用は動きが取れないという判断からだ。また、取り扱いアイテムも酒類・コメ・水などから、ペットフード・日用雑貨・介護用品などラインアップの拡充を図っていく。その大変革は酒類流通の範疇(はんちゅう)を超え、新たな小売流通モデルとしてその動向が注目を集めている。カクヤスグループの佐藤順一社⻑に新生カクヤスについて、そして創業100周年への思いを聞いた。(金原基道)

コロナ禍で動けない業務用

–事業の軸足をBtoBからBtoCへと思い切り振り切られました。

佐藤 3回目の緊急事態宣言(4月25日発令)で、居酒屋は休業もしくは酒類提供中止が要請されました。また、企業の社内パーティーといった法人需要も消失してしまいました。これでは、業務用酒販は手の打ちようがありません。その中で、事業を継続させるためには、自社で数字を作れる部分に経営資源を集中せざるを得ません。それがカクヤスの場合はBtoCです。コロナ前でもBtoCは、「なんでも酒やカクヤス」の来店と宅配を合わせた家庭用の売上げは当社売上げベースで3割ほどの構成比でした。BtoCは、酒類への規制もなく、そして宅配ニーズは伸びています。それなら伸びている宅配ニーズに注力するべきでしょう。
 第1回目の緊急事態宣言時(2020年4月7日〜5月25日)は、コロナが1年以内に終息し、業務用は回復すると思っていましたが、結局1年半以上経過してしまいました。これ以上、指をくわえて業務用が回復するのを待っていられません。もちろん業務用が復活すれば、それはありがたいです。しかし、復活しない、または想定ほどには復活しないことを考えると、会社を切り盛りするには何かで穴埋めしなければならない。そうすると宅配を伸ばしていくしかないのです。

月間10万軒の配送能力創出

–宅配に注力するための具体的な手法は。

佐藤 カクヤスは、店舗から個人経営の飲食店にお届けする割合も、店舗売上げの3分の1はありました。そして3分の1が来店、3分の1が家庭向けの宅配とこれが、「なんでも酒やカクヤス」の三位一体モデルでした。
 その飲食店へお届けしている労力を物流センターやサテライトに集約すると、店舗の3分の1、月間約10万軒の配送能力ができます。その能力を活用して宅配をやろうということなので、新たに能力を増強するわけではありません。既存の能力の中でやっていこうというのが基本的な考えです。
 カクヤスの「ビール1本からお届け」という宅配の消費者認知度を調べたら4割程度でした。残りの6割は「知らない」「利用したことがない」のです。その6割の内の半分の方に新たに利用いただければ、宅配の売上げは倍近くなります。6月後半から初めて消費者への認知度アップのためにテレビCMを始めました。まずは間口を大きく広げることが大切です。
 大きな設備投資をするわけではなく、機能の移管だけでできるのであればやるべきでしょう。もちろん業務用が戻ってくれば、また戻せば良いのです。
 最終的には家庭向け専用の店舗網、サテライト網を作りあげたいです。
 業務用の配送拠点は繁華街にしかないですが、業務用が戻ってくれば新設していけばよいのです。業務用の配送拠点は店舗ではなく、倉庫なので良い物件でなくてもかまわないため、コストが抑えられます。最終的には家庭用の即配物流網と業務用の即配物流網、ルート物流網の三層構造にしていきたいと考えています。
 その前段階として、一度店舗から業務用の配送をセンター・サテライトに振って、宅配の売上げを伸ばす。一気に三層構造を目指すとコストが無茶苦茶かかりますが、今はコストをかけている場合ではないです。もちろん業務用が戻ればコストをかけて設備投資することはできるでしょう。しかし、今は家庭用、特に宅配の売上げを上げることに注力します。

–三層構造の物流は以前から考えられていたのですか。

佐藤 上場時に「配達プラットフォーム企業への進化」を掲げていました。3年、5年かけて進めるつもりでしたが、コロナで1年でやらなければならなくなったのです。そのために伊藤忠食品さん、三菱食品さんにお願いし、両社約11億円ずつの第三者割り当て増資を引き受けていただきました。
 BtoCのビジネスモデルが構築でき、業務用も戻ってくれば以前より収益力が高い会社になる可能性もあります。利益率が高い宅配が増えることで粗利率の改善も期待できます。

BtoC向けラインアップ強化

–伊藤忠食品、三菱食品に期待することは。

佐藤 お願いしているのはBtoC向けの商品ラインアップを増やしていくための提案です。宅配売上げ倍増と一言で言っても、簡単に倍になるわけではないです。酒類にとらわれていたら倍いかないかもしれません。
 まず、ペットフードの宅配を新たに始めました。巣ごもりの中で何を扱うべきか考えて決めました。その後、介護用品や日用雑貨などカテゴリーを増やしていきたいと思います。

–なぜ、最初にペットフードなのですか。

佐藤 コメや水は以前からやっています。酒の周辺とか、酒関連というものの見方は物流を考えると正しくないのです。
 まず「ドライで運べるものは何か」「届けてほしいものは何か」というところから見ていかなければならない。
 商品軸から見ると「なぜ、いきなりペットフード?」となりますが、ドライで届けられて、かさばって、届けてほしいと思われていて、今伸びているものといったらペットフードなのです。こんな考え方でないと物流はうまくいかない。
 時間帯から考えても、酒は夕食に合わせて届けてほしいでしょう。しかし、夕食に合わせて欲しいものを扱うと一番忙しい時間帯がさらに忙しくなってしまいます。夕食に合わせなくてよいものと考える、早い時間に届けられて、完結するという時間軸でもこの商品はできる、この商品は良いけれどまだやるべきではないという選択が必要です。
 新商品取り扱いの専門部署として「カクヤスPlus推進部」を立ち上げました。
はたから見ると「なぜペットフードなの?」という感覚かもしれませんが、物流から見ると「まさにペットフード」なのです。

1時間以内の宅配に敵なし

–ペットフードなどの在庫については。

佐藤 今までは、店舗で業務用の配達を行っていたので瓶ビールや生樽などのストックがありました。業務用の配達を移管することでそのスペースが空きます。また、横持ち専用の平和島流通センターにストックしておいて、注文を受けたら店舗に自社物流で配送して、在庫を置かずにそのままスルーで販売できるというシステムを今、研究しています。これができれば小規模店舗でもいろいろな商品を販売できます。
 酒以外のものを販売することについて、業界からは「まだ早いだろ」という意見もありましたが、「そんなこと言っていられないだろ」という状況です。
 今までのカクヤスは、業務用があったから算盤(そろばん)が合っていました。それと業務用のカルチャーが強かったから、店舗も業務用優先でした。業務用の注文が多いと、家庭用の注文を受けきれないこともありました。それでも業務用は物量が多くて、効率が良いからそれでいいやという考えでした。しかし、業務用が激減したため、その考え方は通用しなくなりました。業務用を無くしたとしても、店舗の算盤が合うようにしなければならないのです。BtoCの宅配モデルを作りあげなければならないのです。
 しかし、家庭用と業務用の両方をやっていてよかった。ハイブリッドモデルであるために何とかなるんだと思っています。
 正直、ビール1本から、1時間以内で届けられるという機能では競争相手はいないと思っています。食品スーパーも宅配を強化しており、ビッグチャンスだと思います。宅配のクオリティーを維持しながら拡大していけば負ける要素はないでしょう。

–確かにそう思います。

佐藤 「では、なぜもっと早くやらなかったのか?」と言われたりしますが、それは自分自身が業務用の人間だったからだと思います。もともとチェーン店の営業をずっとやってきて、○○チェーンの社⻑と飲みに行くということをずっとやってきました。そうすると業務用が中心で家庭用がサブということが、「そんなことはない」と言いつつも身に染み付いていたのです。コロナ禍を契機にそれを無理やりにでも払しょくしなければならなくなりました。
 当社の強みは自社物流です。すでにお客さまの玄関先を押さえているので、まずは酒類、それから酒以外のものも買っていただけるように展開していきます。
 また、せんだって料理宅配業の方に「カクヤスさんだけですよ。雨の日に売上げが伸びないのは」と言われました。なぜかというとフェース・トゥ・フェースで結び付いているからです。「雨の日に持ってきてもらったら悪いからな」とお客さまが遠慮してしまうのです。でも、これは「信頼されている」「かわいがっていただいている」という当社の強みです。この強みが他社EC事業者との差別化になると思います。

–酒類との親和性の高い商品はEC販売していく。

佐藤 7月12日に専用サイト「カクベツ」を開設しました。これは売上げを上げるというよりも、酒類業界に少しでも役に立てればと開設しました。当社との関係性が薄い地方の酒蔵さんの商品とその地域の特産品が、カクヤスネットショッピングサイト会員145万人の目に留まり、地方の蔵元さん、食品メーカーの売上げアップに少しでも貢献できればと思います。

※「カクベツ」サービスは、2023年12月31日(日)をもって終了いたしました。

居酒屋文化は不滅 需要は変化

–コロナ禍で業務用と家庭用の比率が7対3から5対5になった。将来的にベストと思う比率は。

佐藤 今の段階ではわかりません。業務用の構造も大きく変わるでしょう。コロナ前までの飲食店は繁華街が強い、チェーン店が強い、大型店が強いという考え方でした。それがコロナで逆になってしまいました。これが元に戻るかどうかはわかりません。業務用酒販にとっては飲食店1軒当たりの客単価は下がると思います。それに対応するためにはルート配送よりも、サテライト配送の方が適しているかもしれない。それを模索しながら進めていくしかないです。
 消費者アンケートで、コロナ後に行きたい店の上位には「居酒屋」が挙がります。居酒屋という文化は不滅です。しかし、宴会の人数が20〜30人だったのが、4、5人へと変わるかもしれません。そういう消費者の変化が急速に起きると思います。そして、その時はどんな業態が成立するのかというのもわかりません。結果的にはBtoCの伸び方、業務用の戻り方次第ですが7対3から5対5、もしくは家庭用の割合が多くなるかもしれません。
 しかし、今までこんなピンチは考えたこともなかったです。まさか酒を売ってはいけない時代が来るなんて想像したこともありませんでしたが、決して乗り切れないとは思いません。「何とか乗り切れる」という自信めいたものが自分の中にあります。ただ、変化させるスピードは今までの何倍も速いため、現場は混乱するかもしれません。でもこれを経験することは将来に必ず役立ちます。

私なりの「酒を売る心」

–大きな節目がちょうど100周年。社⻑が3代目に就任時(93年)の会社規模は。

佐藤 30億円でした。3年で100億円を目標にしましたが、97億円でした。急拡大できたのはマインマートの買収(11年)が大きかったです。それで店舗網を大きく広げられました。
 しかし、今思うとあのタイミング(19年12月23日)で東証2部に上場できたのは奇跡的です。上場後、すぐにコロナ禍直撃です。上場していたからこそ第三者増資の枠組みもできました。

–100周年で何か予定は。

佐藤 コロナ禍で悪者扱いされている酒類のイメージを改善しなければならないと思います。
 昨年、亡くなった父(安文氏)は、酒にまつわる俳句や短歌が好きでいろいろ集めていました。その父からは「お前には、酒を売る心がない」といつも小言を言われていました。ビジネスモデルではなく、「酒は心で売るものだ」と。

–心とは。

佐藤 とうとう最後までわかりませんでした。
 父は「将来的には、アルコール関連問題の専門病院を開設する」と言っていました。酒には功罪があります。楽しくコミュニケーションがとれる、ストレスが発散できるなど良い面があります。しかし、一方で過度に摂取するとアルコール依存症やアルコール中毒、飲酒運転による事故など罪もあります。この罪に対する手当てとして、専門病院を開設したかったのですが、かないませんでした。
 その遺志を継いで、2、3年前からアルコール依存症対策に予算を設けて支援しています。依存症で困っている人やその家族が電話で相談する「なんでも相談窓口」の開設や、依存症から脱却するためのトレーナーを育成する講座などへの支援を行っています。
 アルコールで悩んでいる人たちに手を差し伸べるのは、酒類を販売する者の義務だと思います。こんなところにも目が行き届き、気配りできる会社でありたいと思います。これが私なりに考えた「酒を売る心」です。

日本食糧新聞社発行 2021/07/17 日本食糧新聞 第12263号
掲載している写真は、日本食糧新聞 第12263号とは関係ありません。

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